傷付くのが怖い~回避性パーソナリティ障害~

人生の中で、成功体験は大事。成功体験はその人の自己肯定感に繋がります。
ですが、成功体験だけが自己肯定感に繋がるのではありません。失敗した経験や、傷付いた経験から学ぶ事も多いものです。一見マイナスに見えるそれらの経験は、その人の優しさや、引き出しの多さや、器の大きさや、他人を受け入れる包容力に繋がります。ですから私は、人生に起こる事で失敗は無いと思っています。失敗(だと本人が思っている現象)は宝の山なのです。

ジャンプ

とはいえ、失敗して傷付くのは、誰しも嫌なものです。それを極端に怖がっているのが、回避性パーソナリティ障害の人です。失敗して他人から批判されたり、拒絶されたり、恥をかかされたり、バカにされたり。それが怖くて怖くて仕方ないので、新しい体験をする事や、新しい生活に踏み出す事が出来ません。「傷付くぐらいだったら最初からやらない方がマシ」とさえ、思っています。そこには、
「どうせダメだ」
「どうせ無理」
「やるだけ無駄」
「やっぱりダメだ」
という強い思い込みが隠れています。要は自分に自信が無いのです。

自信が無いから何をするにも消極的です

特に対人関係、中でも恋愛関係といったパートナーシップに於いて、その傾向が顕著に表れます。「来る者拒まず、去る者追わず」というのが、彼らのスタイルです。
「どうせ愛して貰えない」
「どうせ捨てられる」
「どうせ嫌われる」
潜在意識でそう思い込んでいるので、相手に気持ちを入れ込んでしまうと、何か問題が起きた時に自分が傷付くのが怖いからです。ですから、親密な人間関係を築く事を、無意識のうちに避けてしまいます。何なら、自分を愛してくれているパートナーに対して、わざと嫌われるような事をしてしまったりします。

皆さんも次のような経験は無いでしょうか?

付き合っているはずの彼との関係が、何故か深まらない。
いい感じの彼と関係が深まりそうになった途端に、突然別れると言われたりする。
彼といい感じだったのに、急に連絡が取れなくなって、うんともすんとも反応が無い。まるでこころにシャッターを下ろされたよう。
彼が私を傷付けるような事を言ったりやったりしてくる。「わざとやってんのか?!」と思う事もある。

これらが彼の回避行動である場合も多いのです。相手にこのような態度を取られると、こちらは何が起こったのか分かりません。茫然となったり、あたふたと戸惑ったり、喧嘩を売られたと思って受けて立ったり、相手が下ろしたシャッターをドンドンと叩いて「そこにいるんでしょ!出てきなさいよ!」とやったり、無理やりシャッターをこじ開けて突撃しようとしたりして、こじれにこじれたりします。

どうして回避性パーソナリティ障害になるの?

回避性パーソナリティ障害の人は、元をたどれば【褒められなかった子】です。そこにはふたつの要因が考えられます。

ひとつめの要因

何らかの理由で、養育者が本人に対して、否定的な態度を取ってきた。意識的にしろ無意識にしろ、低く評価されてきた。このような経験が積み重なって「自分は劣った存在だ」という間違った価値観を刷り込まれて育った場合です。

ふたつめの要因

本人にとって、逃げ場の無い苦しい体験をしてきた場合です。
【逃げ場の無い苦しい体験】というものが「思い出すのも嫌なぐらい衝撃的な体験だった」という場合もありますが、「まあ耐えられなくはないけれど、かなり嫌な体験が長期間続いた」という場合もあります。例えば、本人が望まない長期間の受験勉強や部活動など、本人の意思とは関係なく、親の望む事をやらされ続けたケース。また、いじめを受けたケースもこれにあたります。

前述したような彼だと「彼って回避性の傾向があるなあ…」ぐらいで済むかもしれません。ですが、回避性がこじれて学校や社会に出られなくなり、ひきこもりというような日常生活に支障をきたす状態になってしまうと、回避性パーソナリティ障害と診断されるのです。

接し方のこつ

ここでは、カウンセリングで相談の多い【彼が回避性の傾向がある】場合に絞ってお話します。つまり、彼に突然シャッターを下ろされた、突然音信不通になった、突然別れると言われた、こういった回避的な行動をされたんだけど、さてどうしたら良いですか?という場合ですね。

彼らは、こころの底では人との関わりを求めています。なのに、人との距離が近くなる事が怖くて仕方ありません。ですから彼の回避行動は、ストレスとか傷付くとかいう恐怖に対して「彼が自分自身を守るための自然な反応なんだな。」と理解してあげて下さい。

その上で何よりも大事なのは【彼の気持ちを尊重する】ということ

彼がシャッターを下ろしたのであれば、その気持ちを受け入れてそっとしといてあげる。彼が離れたいと思うのであれば、その気持ちを受け入れて離れてあげる。そこで彼の意志とは無関係に、あなたの意志を押し付けないこと。「私から逃げるな!頑張れ!闘え!」と、逃げ出す事を許さないのではなく、逃げ出す自由を与えてあげるのです。

多くの回避行動は、彼がストレスに感じている事から一時的に離してあげて、休ませてあげると、自然に回復する力が働いて元に戻ります。なのに、ここで彼に何とか頑張らせようとして無理強いすると、本人をガンガンに痛めつけてしまい、ダメージはどんどん大きくなります。そして、なんとかかんとかその場を乗り切ったとしても、後で大きなツケが回ってきます。

つまり、回避行動を取っている彼を、それじゃダメだと極限まで頑張らせてしまうと、彼のメーターが振り切った状態になり「もう無理!ぜったいイヤ!」と、糸がプチンと切れてしまうのです。そうすると、その糸を繋ぎ直すのはとても難しくなってしまいます。回避が長期化してしまう原因のひとつです。

あなたには「彼の気持ちを受け入れてあげて、彼の回避行動に過剰に反応せず、ジタバタせず、長い目で見て、どっしりと構え、こころに余裕を持って、彼を休ませてあげる事」が求められます。彼の意志に委ねて、彼が自分で動き出すのを待ってあげるのです。その間、あなたは彼を信じて、あなた自身の事に精を出していれば良いのです。あなたがそういう立ち位置に居ることで、
「疲れた時は休めばいいんだ」
「辛い時には逃げてもいいんだ」
「人生は自由なんだ」
「いくらでも選択肢はあるんだ」
「ゆとりを持って人生を生きていいんだ」
という事を彼は学ぶでしょう。その学びが生涯に渡って彼自身を守る事にもなり、彼の追い詰められ感を和らげて、結局は復活に繋がります。

このようなあなたの在り方は大変難しいことですが、もしどうしてもそれが出来ないのであれば、あなた自身が何らかの問題を心に抱えているのかもしれません。例えばあなたが義務感や責任感が強い人だった場合。彼の回避行動はただ責任を逃れているように、また義務を怠っているように見えて、許せないかもしれません。もしかしたらあなた自身に「人としてこうすべきだ!」というような、価値観の刷り込みは無いでしょうか?
また、あなた自身が自分を信じられなかったり、自分に自信が無かったり、「私は捨てられる」というような見捨てられ感が強い場合。彼をそっとしとくなんて不安で不安で仕方ないかもしれません。もしかしたらあなた自身が、人間関係を作るのに大きな不安を抱えるような育てられ方や経験を、してきてないでしょうか?

参考文献
【知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス】厚生労働省
【パーソナリティ障害】岡田尊司 著

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