「カウンセリングで答えを教えてはくれないんですか?」と言う相談者
カウンセリングというのは、悩んでいる人に対して援助するのが仕事です。ですからたいていの方は
「こういう問題で悩んでいるんです。良くなりたいんです。どうしたら良いですか?」
とやって来られます。そしてカウンセラーは
「どうやったらその悩みを軽くしてあげられるだろうか。」
という風に考えます。
「人を相手にするサービス業の仕事に就いているのに、人に対して言葉が出てこない。」
という相談者がいらっしゃいます。上司に注意され、自分でも頑張って喋ろうとするんだけれど、お客さまを目の前にするとどうしても言葉が詰まって出てこない。困り果てて
「お客さま相手に言葉を出せるようになりたいんです。どうしたら良いですか?」
と相談に来られます。
カウンセラーは、
「どうにかしてこの人を、お客さま相手に言葉が出るようにしてあげて、円滑に仕事をさせてあげたい。」
と考えます。そこでまず、なぜお客さま相手だと喋れないのか、という原因を探します。
例えば、友人や家族相手にはどうなのかとか、過去の人間関係の中で喋ることで辛い思いをしたことが無かったかとか、親との関係で不安を感じるようなことは無かったかとか、過去にも似たような経験をしたことは無かったかとか。そういう色んなことを話し合って、
「もしかしたらこれが原因かもしれませんね。」
と言葉にして本人に認識して頂き、
「じゃあ過去に受けた傷を癒やしていきましょう。」
「物事の捉え方を変えてみましょう。」
というような対策を提案して、2人で一緒に取り組むわけです。
もちろん、それですっと良くなる方もいらっしゃいます。ですが、そう簡単にはいかない場合も多々あります。そうなると
「お客さま相手に言葉を出せるようになって、円滑に仕事が出来るようにしましょう。」
というような、単純な話ではなくなってきます。そんな時、カウンセラーが何を考えるかというと、
「人に対して言葉が出てこないこの人が、人を相手にするサービス業についているという現状に、どんな意味があるのだろうか。」
「この人は、そんな状況に生きている自分の人生ということについて、どう考えているのだろうか。」
「この現状は、この人のこころの内の何を見せているのだろうか。」
「私という人間が、いま、この人のこの現状を見せられている意味は、何なのだろうか。」
というようなことです。つまり
この人はどう生きるのか
この人はどう生きてどう死ぬのか
この人の人生とは何なのだろうか
この人はなぜ生まれてきたのだろうか
というような、とても難しい話を考えなくてはいけなくなります。
言い換えれば、この相談者は人間の根源に関わるような難しい問題に直面している、とも言えます。そこで相談者自身にも、
私はどう生きてどう死ぬのか
私の人生とは何なのだろうか
私はなぜ生まれてきたのだろうか
というようなことを考えて頂くわけですが、正直、そんなものに答えなんかありません。
そしてそこには、一般論も、普通はこうだというような考えも、正解不正解も関係ありません。
ですからこの相談者は、普通とか一般論では説明のつかない、答えのない答えを探求するために問題に直面している、という難しさがありますし、もしこの相談者に
「この問題をどうしたら良いですか?」
「カウンセリングで答えを教えてはくれないんですか?」
と聞かれても、カウンセラーにもその答えは分からないのです。
となれば、カウンセラーとしては
「これはあなたも私も分からない難しい問題だから、2人で力を合わせて、ああでもないこうでもないと対話を重ねながら、一緒に悩みましょう。私も頑張るからあなたも頑張って。そうやって2人で頑張って、あなたらしい答えを一緒に見付けていきませんか?」 となるのです。これはもう大変な作業で時間もエネルギーも必要ですが、そうやって苦労して見つけた答えが、揺らがない【自分の軸】を作るのだと思います。