死にたい気持ちの裏にあるもの
その人は何度も何度も自殺未遂を繰り返していました
受診もしています。薬も飲んでいます。だけど無意識のうちに自分の身体を傷付けてしまうのです。ただ、うっすら笑いながら淡々と、思春期にいじめを受けていたという話をされました。それはそれは壮絶な話でしたが、何故か笑っている。だけど決して目は笑っていない。これを【ニセモノの笑顔】と言います。ニセモノの笑顔を作る事で、その人のこころの奥底にあるナニカが私の前に出てこないように、防御しているんですね。こうなってくると、いじめを受けた事だけが繰り返す自殺未遂の原因だとは思えません。
その人から伝わってくるのは強烈な【罪悪感】でした
何故なら言葉の端々に「私はダメな人間」というような含みを感じるからです。分かりやすい罪悪感といえば「誰かを傷付けてしまった!」というものがありますね。ですがその人の場合はとても分かり辛い罪悪感で本人も気付いておらず、潜在意識に深く刻み込まれたものでした。
そこを指摘したら、まるで仮面が剥がれ落ちるようにニセモノの笑顔がストンと落ち、その人から涙が溢れ出てきました。そして「罪悪感って今まで誰にも指摘された事がありませんでした。だけど本当にそうですね。」と、話をしてくれました。
どんな罪悪感を抱えていたの?
その人の父親は、家族全員に暴力を振っていました。ですが何故かその人だけは暴力を振われず、可愛がられたそうなんですね。のちに両親は離婚し父親は出ていき平穏な生活を取り戻しますが、その人の潜在意識には強い罪悪感が刻み込まれてしまいました。それは【自分だけが父に優しくされた】という罪悪感、そして【自分は苦しむ家族を助けられなかった】という罪悪感です。つまり「自分は家族を愛していた。だからお父さんに暴力を振われる家族を助けたかったし、暴力を振うお父さんも助けたかった。だけど上手くいかなかった。家族を助けられなかったこんな自分は罰せられなきゃいけない。傷付けられなきゃいけない。」という思いから、自分で自分を罰するために自分を傷付けていたんです。
まずは癒しを
とにかくこころを傷付けられた過去の自分(インナーチャイルドともいいます)を、徹底的に癒やしていきます。一度や二度のワークで癒されるような簡単なものではないので、本人にも腰を据えて取り組んで頂きます。
そして【自分に罪は無い】と潜在意識を書き換える
こういう方は「試しに『私は無罪です』って言ってみて下さい。」と促しても、まず言えません。それだけ強烈に罪悪感を潜在意識に刻み込まれているんです。ですから、インナーチャイルドの癒しが進んできたら、今度は刻み込まれた潜在意識を書き換えていきます。毎日毎日「私は無罪です」とお経のように唱えて頂くのですが、これも最低3週間は必要です。同時に、怒りを出す練習や自分を褒める練習など、その人に合ったワークを無理のないように進めていきます。
問題の裏にはその人らしい大きな力が隠れています
カウンセリングが3回、4回と進んでくると、本人の雰囲気がキラキラしたものに変わっていきます。ここで、あなたの力(トランスフォーマンスとも言います)は何でしょうね?というお話をします。長所と短所は表裏一体と言いますが、それと同じで問題と力も表裏一体です。この方の場合、繰り返す自殺未遂が問題でしたが、その根っこには家族に対する大きな愛がありました。愛しているが故に罪悪感を抱え、自分を傷付けていたんです。それだけ愛情深いという事。愛情深いという事は、他人を受け入れる器がとても大きい人だとも言えます。ここにこの方の力が見えてきます。その力を活かす、つまり【自分らしく生きる】という事を一緒に考えていきます。
まとめ
もちろん人にもよりますが、死にたい気持ちの裏には本人も気付いていない罪悪感がある事も多いものです。【死にたい気持ちがある時にはまず受診すること】、これは鉄則ですが、受診してもなかなか良くならない場合は、カウンセリングを併用する事を検討してみても良いかもしれません。その際には必ず主治医の先生に相談して利用されて下さいね。