自己嫌悪ってすごく厄介で嫌な感情です~嫌いな相手が他人だと最悪逃げることができるけど、嫌いな相手が自分だとそこから逃げることができませんもの~
「あの人が嫌い!」という感情は、自己嫌悪を投影している場合があります。
ここで一例をあげてみましょう。
Aさんは、職場のB上司が嫌いです。B上司は仕事があまり得意ではなく、
「ただニコニコしている人」
そんなB上司を見ていると、Aさんはたまらなくイライラます。それでも上司だからとぐっと堪えて、B上司をフォローしながら仕事をしていました。
ですがそのうち、B上司がAさんに意地悪をするようになってきました。それでも何とか耐えていましたが、とうとう、
「B上司がAさんに書類を投げつける。」
という事件が発生します。Aさんには全く関係の無い案件で、B上司の勘違いが発端でした。
怒り心頭のAさん。B上司のさらにその上司に訴えますが、
「えーあの人がそんなことするかな?ニコニコしてて穏やかで、そんな人には見えないけど…」
と、全く話になりません。そうしてAさんがカウンセリングに来られたのでした。
実はAさんは幼少期から「いつもニコニコしていて良い子」と言われ育ってきました。
なぜなら、両親とも厳しい人たちで、Aさんの周囲からの評価が高いと両親が喜ぶからです。
「ニコニコしていると他人から褒められる。」
「ニコニコしていると他人から攻撃されない。」
という価値観で育ったAさん。自分でも意識せず、笑顔が張り付いてしまうようになりました。成績も優秀でしたし、いつもニコニコしているので周囲からも愛され、怒られるなんてことはそうありませんでした。
そんなAさん、新人の頃、職場で小さなミスをしてしまい先輩に注意を受け、さらにこう言われます。
「あなたいつもへらへら笑ってるけど、何がそんなに面白いのよ?!」
Aさんは衝撃を受けました。
「私って怒られる時も笑ってたの?」
「ニコニコしているとダメなの?」
今までのAさんの価値観が、ガタガタと崩れていきました。
他人から怒られることなんてめったに無かったAさんでしたので、先輩のこの一言がAさんにこころに大きな傷を残しました。考え込むうちに傷はどんどん広がり、
「私の顔は他人に不快感を与える」
という気持ちにまでなってしまいました。Aさんは「いつもニコニコしている自分」が嫌いになってしまったのです。自己嫌悪です。
そして、「いつもニコニコしている自分」を嫌っているがために「いつもニコニコしているB上司」も嫌いになってしまったのです。これが、自己嫌悪を相手に投影している、という現象です。
そうすると「嫌い」というAさんの感情は、間違いなくB上司に伝わります。B上司は「嫌われても平気です!」って人じゃなかったから、逆襲のようにAさんに意地悪をするようになったのでしょう。
自己嫌悪って、その人にとってはすごく厄介で嫌な感情です。
他人が嫌いだというのであれば、最悪逃げることが出来ます。だけど、自己嫌悪というものは嫌いな相手が自分なので、そこから逃げることが出来ません。だからどうしようもなくイライラするし、モヤモヤするし、とことんまで落ち込んで自分を傷付けたりします。
こういう場合、自己嫌悪から逃げようとしないで、ぶつかっていって壁を突き破るつもりで向き合うと、自分の欠点に気付くことが出来ます。
欠点に気付いたら「どうして自己嫌悪が起こっているのか」というような視点から見て、過去の怒りや悲しみといった感情のもつれを解きほぐしていく。そうやって解きほぐした後に自己肯定感を上げていくと、ダメだと思っている自分の性質も受け入れられるようになるので、嫌いな相手の性質も受け入れられるようになり、普通に付き合えるようになります。そして、自分が変われば相手も変わります。
「あの人が嫌い」という感情は、自分自身が持つ自己嫌悪を映し出してくれている場合があります。その自己嫌悪から自分自身を洞察することが出来れば、自己嫌悪の壁は破れます。自分自身を洞察する時には、自己嫌悪の渦に飲み込まれないように、自分を上手に客観視するということが大事です。ひとりでやるとどうにもイライラしたり、同じ場所でぐるぐると堂々巡りをしたりしてしまいますので、客観視してくれる信頼できるカウンセラーを使うのも一つの手です。
「あの人が嫌い」と感じた。嫌いは嫌いで良いのです。無理に好きになる必要はありません。ですが、嫌いな相手を攻撃するばかりでは、自分自身はなかなか成長しないのです。