こころの問題というものは、どうしたら良いかクライエントは分からない。そしてカウンセラーも分からない。【分からない】ところから2人で始めるのが【カウンセリング】なのです。
カウンセリングにいらっしゃるクライエントは、悩みを抱えていらっしゃいます。
そしてカウンセリングの場で、ご自分の悩みや辛さを訴えられます。
それをずっと聴いていると、クライエントは言いたいことが尽きてきて、
「どうしたら良いでしょうか?」
と聞かれます。
ですが、こころの問題というものは、身体の問題と違って「これが原因ですよ」と答えられることが少なく、だから「こうしたら良くなりますよ」とすぐに答えられることも少ないのです。だから問題が起こっているとも言えます。
ここからがカウンセリングの始まりです。
カウンセラーもすぐには答えられないから、まずは
「なぜこの問題が起こっているのか」
を追求していくのですが、それはカウンセラーがひとりでやるのではなく、クライエントとカウンセラーが2人で一緒にやるのです。共同作業です。つまりカウンセリングというのは
「クライエントが悩み相談をして、それにカウンセラーが解答を与える」
というような、一歩的なものではないということです。
先述しましたように、まず、カウンセラーはクライエントの話をひたすら聴きます。
クライエントの言いたいことが尽きたとしても、まだまだ真剣に聴きますよという姿勢でいると、クライエントのこころには色んな言葉や感情が浮かんできます。そうやって浮かんできた言葉や感情は、最初にクライエントが訴えていた悩みとは違っていたり、全く繋がっていないと思われるものであったり、あちらこちらに飛んだりするものですが、
「最初に仰っていた話とは違いますよ。」
「話がずれてきましたよ。」
とか言って、遮ったり否定したりせず、とことん聴いて、クライエントの態度をつぶさに観察していきます。そうすると、一見関連性のないように思えるそれぞれの言葉や感情に、関係性が見えてきます。この時に、カウンセラーが心理学の知識をしっかり持っていることで、それらの関係性が今、クライエントのこころにどういう相関図を作っているのを考えることができます。それがカウンセラーの力量です。そして、
「なぜこの問題が起きているのか」
「どうしたら良いのか」
という回答に繋がっていくのです。
ここまでくるのに、初対面の人間同士が、たった50分やそこらの一度の対話(カウンセリング)だけで出来るはずがない、ということは、よくお分かりになって頂けるかと思います。一度には出来ないから、カウンセリングというものは毎週お会いして続けていくのが良いのです。
昨今【自己肯定感】という言葉をよく聞くようになりました。
「この問題はあなたの自己肯定感が低いから起こっているのであって、自己肯定感を上げていきましょう!」
と言われたります。色んな人が自己肯定感の上げ方を教えてくれていますし、私も何度もクライエントに紹介したことがあります。ですが「こうやると良いですよ」と教えて、本当にその方法を続けて自己肯定感が上がった、という方は実はあまりお聞きしません。
自己肯定感の低さというのは、幼い時に一番大切な人(多くは親)に自分を大切にして貰えなかった、という経験が影響している場合が多々あります。一番大切な人にさえ大切にして貰えなかったのに、どうして自分を大切に思えるでしょうか。だから、自分ひとりで自己肯定感を高めるって、とても難しいのだなと感じます。
こういう場合も「カウンセラーが真剣に話を聴く」ということに、大事な意味があります。
「なんでもない自分の話を、こんなに真剣に聴いて受け入れてくれる他人がいる。」
「自分だって自分の話をしても良いんだ。」
そう思えるような経験を「自分ひとりじゃなくて誰かと共に何度も重ねていく」ということが、自己肯定感アップに繋がっていくのではないかと、様々なケースに接して思います。
参考文献:カウンセリング入門 河合隼雄 著