依存症は愛着障害
愛着とは
幼少期において、特定の養育者との結びつきこそが、子どもが生きていく上で必要な、安全安心感や適応力を支えるのに重要な役割を果たしています。そしてその特定の結びつきを【愛着】と呼びます。
突然ですが、私たち人間は、どのように喜びや満足を得ると思いますか?
「私はどんな時に嬉しくなる?どんな時に満足するかな?」少し考えてみて下さい。
生理的な満足感や快感から、精神的な満足感や達成感まで、喜びや満足の種類は人によって沢山あるように思えます。ですが実は、人間に喜びや満足を与えてくれる仕組みというものは、生物学的には3つしかありません。
1.お腹いっぱい食べた後や、性的興奮の絶頂で生じるもの
代表的なものは【エンドルフィン】です。エンドルフィンは神経伝達物質のひとつで、人に幸せな感覚を与えます。これは麻薬のモルヒネと同じような作用なので、別名【脳内麻薬】とも呼ばれています。生理的に満ち足りた感覚と深く関係していて、私たちが生きていく上で「最低限の喜びや満足」を与えてくれます。
2.困難な目標を達成した時に生じるもの
代表的なものは【ドーパミン】です。ドーパミンもまた神経伝達物質のひとつです。例えば難しい数学の問題が解けた時や、マラソンで完走した時など、ドーパミンが出て「やった!」という喜びや満足を得ます。この仕組みは、努力したご褒美に得られる喜びという意味で【報酬系】と呼ばれます。
ところがこの報酬系は、「努力をしないでドーパミンを出して快感を得る」という方法があります。それが薬物・ギャンブルなどのやみつきになる行為・アルコールなどの嗜癖性のあるものです。これらは、努力しないでも手軽にドーパミンを出して快感を得ることが出来るので、依存症を引き起こしてしまうのです。
3.愛する人の顔を見たり、愛する人とふれあう時に生じるもの
代表的なものは【オキシトシン】です。脳から出されるホルモンで【幸せホルモン】と呼ばれています。家族や恋人や友人など、愛する人とのふれあいでオキシトシンの働きが活発になり、安らぎに満ちた喜びを感じます。この仕組みは、元をただせば幼少期の養育者との結びつき【愛着】に繋がります。
【愛着】は、オキシトシンといったホルモンに支えられる生物学的なメカニズムです。オキシトシンは、授乳や分娩を引き起こすホルモンであり、子どもを育てる・世話をするといった本能に関わるだけでなく、絆を維持するという役割も果たしています。また、ストレスや不安を和らげる作用もあります。ですから、愛着(=養育者との結びつき)が不安定でオキシトシンがうまく働かないと、特別な結びつきは失われ、ストレスを感じやすくなって幸福度が低下し、こころや身体の病気にもなり易くなったりします。
さて、生きていると、ありとあらゆる試練や苦痛がおそってくるのに、人間に喜びを与えてくれる仕組みはただこの3つだけなのです。
例えば、頑張っていた人が学業や仕事でつまづいた時というのは、2のドーパミンの報酬を得ることに失敗したということです。だけど、家族の優しい慰めで立ち直ることが出来るのは、3のオキシトシン系が、傷付いた思いを癒やして喜びを与えてくれるからです。
ところが、3の愛着の仕組みもうまく機能していない、不安定な愛着を抱えた人だとどうなるでしょうか?
喜びや満足を得るために「頑張って結果を出す」という戦略を取ったけど、つまづいてしまった。その傷付いた思いを癒やして代わりの喜びを与えてくれるのは、
① 食べることや性欲を満たすことで、生理的快感を得る。
② 薬物・ギャンブル(パチンコやゲームなど)・アルコールといったようなもので、手軽にドーパミンを出す。
この2つの手段しかないのです。
ですが①は過食やセックス依存に繋がり、②は薬物依存やギャンブル依存やアルコール依存に繋がってしまいます。だけど、依存は良くないから止めさせねば!と単純に考えて、依存している薬物やアルコールをただ取り去るだけでは、問題は解決しません。
依存は決して本来の喜びではありませんが、生きるために必要な喜びであり、そうしないと生きてこられなかった彼らのこころの叫びがそこにあるからです。
参考文献
【知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス】厚生労働省
【死に至る病】岡田尊司 著