疲れたら寝ろ!休め!というけれど、どうして睡眠と休息が大事なのかを物理学的/心理学的に考えてみる

私は、産業保健師として働いていた頃、社内研修でメンタルヘルスの講師をすることがありましたが、そこで従業員の皆さんにこう伝えていました。
「入社や異動や昇進というような環境が変わった時というのは、それだけで莫大なストレスがかかります。そこに気を付けて、環境が変わった後1か月は、意識してしっかり睡眠時間を確保してくださいね!」
それは確かにそうなんだけれど
「でもなんで睡眠や休息が大事って言うんだろう?」
と不思議に思ったことはありませんか?もちろん医学的な理由はあるのですが、ここでは睡眠と休息の大切さを、物理学的/心理学的に考えてみたいと思います。

学生の頃、物理学を学ばれた方ならよくお分かりになるかと思いますが、物理学には【エネルギー】という概念がありますね。エネルギーというのは「どれだけ他のものに力を加える事ができるか」つまり「どれだけほかのものを動かせるかを表す物理量」のことです。

例えば【位置エネルギー】。
これは、高いところにある物体が持つエネルギーのことです。
ある高さにある物体が地上に至るまでに重力に作用されて得る位置エネルギーは、物体の質量・高さ・重力加速度の掛け算で求められます(と言われても難しくてなんのこっちゃ…ですが)。

また例えば【運動エネルギー】
これは、動く物体が持つエネルギーのことです。
重い物体が速く動くほど、運動エネルギーは大きくなります。

他にも、熱エネルギーであったり電気エネルギーであったり、色んな種類のエネルギーがあります。そして
「何らかの仕事がなされた時、それに相応したエネルギーが消費される」
というのが、物理学の重要な概念のひとつです。

これを踏まえて、心理学にも【心的エネルギー】というものがあるのではないかと考えられています。
私たち人間は、何か大きな荷物を運んだ時、すごく疲れます。これは「重い荷物を運ぶ」という物理的な仕事をして、それに相応したエネルギーが消費されたからです。
ですが、こんな経験はありませんか?

「会社の会議に出席。ただ黙って座っていただけなのに、その日は凄く疲れてしまった。」
「新しい職場に初出勤。何をした訳でもないのにひどく疲れた。」
「初デート。映画を観てお茶しただけなのに、帰宅したら疲れて動けない。」

これ、物理的な仕事はしていないけれど【心理的な仕事】をしたから、それに相応した【こころのエネルギー】が消費された状態です。いわゆる【気疲れ】ですね。

こころのエネルギーは【心的エネルギー】といいます。
この心的エネルギーは、
① 私たちが意識している【自我】
② 私たちが意識していない【無意識】
この両者の間を常にぐるぐると流れています。心的エネルギーが、意識(自我)から無意識へ向かうことを【エネルギーの退行】といい、逆に無意識から意識(自我)へと向かうことを【エネルギーの進行】といいます。このエネルギーの退行と進行は、1日のうちで何度も繰り返されていて、私たちのこころの健康を保っています。

ある日突然、会社に行けなくなる場合があります。出勤しようとしても頭痛がしたり、お腹が痛くなったり、酷い時は出勤途中で嘔吐したり。こういう場合、心的エネルギーが退行していき、そこから進行に流れずに留まってしまっていて身体の不調を起こしている、という可能性が考えられます。

さて【自我】というものは、
外側の物事を知覚したり
知覚した物事を判断したり
判断したものを記憶したり
記憶したものを結び付けたり
などと、実に多種多様な仕事をしていますが、そこで消費されるのが【心的エネルギー】です。そして消費された心的エネルギーは、睡眠中や休息中に補給されるのです。ですから、睡眠や休息が十分に取れないと、心的エネルギーが枯渇してしまい、うまく流れることが出来ません。だから、寝ることや休むことって、とても大事なのです。

参考文献:無意識の構造 河合隼雄 著

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