この春、新入社員を迎えた職場の皆さまへ
新入社員である彼らは数年前、この世に生を受け誕生しました。
その時に、母が、父が、願った想いはただひとつ。
「いつも、どんな時も、どうかこの子が幸せでありますように。」
その祈りにも似た想いを受けて、彼らの祖父母、兄弟姉妹、周囲の人たち、学校の先生といった多くの人たちが、彼らを教え、導き、育んでこられました。
そしてこの4月、彼らの成長に関わってきた多くの人たちが、若者ひとりの人生を皆さまに預けて下さいました。
「この子が幸せであるために、この職場だったらこの子を預けても大丈夫。」
そんな信頼と期待をもって。
今度は皆さまが、彼らが幸せであるように、若い芽を教え導き育むという役目を引き継いだのです。
出会いは偶然ではなく、必然です。
必要な人とは必ず出会うようになっています。
ですから、彼らと皆さまとの出会いには、必ず意味がありますし、もしその出会いに問題が起こるとしたら、
「この問題から学ぶべきことがお互いにある」
というサインです。どっちが良いとか悪いではなく、お互いに何かを学ばなくてはいけないのです。
長年、産業保健に関わってきた身として、ひとつ、皆さまにお願いがあります。
スキルや知識より、まずは彼らに安心感を与えてあげて下さい。この安心感とは
「自分は先輩方に受け入れて貰っている。」
「なにかあったら先輩方に守って貰える。」
「自分はひとりじゃない。」
そういう気持ちです。
彼らの多くは、場の空気を読めなければグループからはじかれてしまう、という思春期を生きてきました。ですから、
「自分の言動や自分の存在が、みんなに迷惑を掛けていないか?」
という不安を持つものが多いのです。
そこに加えて、学生から社会人へという環境の大きな変化、慣れない通勤経路、休み時間やお昼ご飯といったちょっとした事でさえ、どうしたら良いか分からず不安で仕方ない状態で勤務しています。
こういう不安MAXの状態だと、覚えられるものも覚えられず、ミスしないようなこともミスをしてしまいます。そして上司からの叱責が続くと、
「先輩に迷惑を掛けてしまった。嫌われてしまった。こんな自分はダメだ。」
と必要以上に自分を責め、メンタル不調に陥ってしまうのです。
「仕事の知識やスキルを、自分で頑張って身に着けよう!」
という意欲は「職場が与える安心感」が根っこにあって初めて育つもの。
「分からなかったら何回でも聞いていいからね。」
「忙しい時はすぐに答えられないかもしれないけど、後でちゃんと答えるからね。」
「今日分からなかったことはなに?もう一回、一緒に復習しようか。」
そういう安心感を与えてくれる上司の言動を受けて、
「こんなにすごい先輩なんです!」「こんなに素敵な先輩なんです!」
と、憧れと感謝を持ってイキイキと語り、スクスクと成長していく新入社員を、私は沢山見てきました。
新入社員はほぼ何も出来ません。そしてミスを重ねます。だけど、
「全力でリカバリーしてやるから大丈夫だよ。」
って、先輩方が無条件に言ってくれ、
重ねてきた経験
積み上げてきた知識
培ってきた人間関係
それらを駆使して助けてくれる姿は、とても力強く、たくましく、カッコよく新入社員に映ります。そして彼らはこう思います。
「こういう上司になろう!」
「この人についていこう!」
その想いは、仕事人として生きていく彼らの一生の宝となり、ひいては社員のエンゲージメントを高めるということに繋がるのです。
人はみな、男性的なこころの動きをする部分「男性性」と、女性的なこころの動きをする部分「女性性」という、2つの性を併せ持っています。男性性とは、理論的にものを考える力、分析力、判断力、実行力、決断力などをいい、女性性とは、包容力、周囲との調和、直感力、感性、柔軟性などをいいます。日本では昔から、男性性を強く押し出して仕事を遂行することが良しとされ、今でもその傾向がみられます。
ならば。
「いつも、どんな時も、どうかこの子が幸せでありますように。」
たったひとつのこの想いのもと「この想いをこの職場だったら叶えてくれるだろう」という、【この子】ひとりの成長に携わってきた多くの皆さんの期待。
その期待に応えてこその「男」ではありませんか。