もっと私を褒めたたえよ!~自己愛性パーソナリティ障害

自己愛

自分が自分を愛することや、自分が自分を大切にすることを【自己愛】といいます。
皆さんは、「私はけっして完璧でも偉大でもないけれど、私には私のいいところがあって、それで十分価値のある人間なんだ」と思えますか?そう思えるのが、自己愛が健全に育っている人です。

自分が自分を愛してあげることで、人は自分自身のこころの器を愛で満たします。そして、満たされた器から溢れ出た愛で、他人を愛する事が出来るのです。
自己愛性パーソナリティ障害の方は、一見自己愛の強い「自分大好き」な人たちに見えますが実はそうではなく「ありのままの自分が大嫌い」な、自己愛の弱い人たちです。自分を愛する事が出来ないのですから、こころの器はカラカラで溢れ出る愛がありません。ですから家族や配偶者や恋人といった周囲の人たちを、上手く愛する事が出来ません。

自己愛性パーソナリティ障害の特徴

1.見た目に華があり、自信に満ち溢れ、とても魅力的なので周囲の注目を引きます。本人も自分は特別な存在だと思っていて、周りの人たちも自分を特別扱いすべきだと思っています。実際、人よりも優れた能力や才能を持っている場合もあります。ですが、それが高いプライドだけだったり、現実とはおよそかけ離れた過剰な自信だけだったりもします。

2.一見、強い精神力を備えた不安とは縁遠いタイプに見えますが、親しくなってくると別の顔が見えてきます。
感情の起伏が激しく、自信満々かと思うと急に不機嫌になります。あまりにも自分が大事過ぎて、他人を尊重出来ません。相手の立場になって考えるとか、相手を思いやるとかいった、他人の気持ちに共感するという事が難しく、感情がコントロール出来なくなると、暴言を吐いたり、暴力を振ったりします。これは反撃されにくい弱者に向かうのが特徴で、パワハラ・セクハラ・DV等に繋がります。
また、苦痛を我慢出来ません。空腹という些細な苦痛でさえも「特別な存在の自分が何でこんな苦痛を受けなきゃいけないんだ!」と、激しい不機嫌の原因になります。

3.自信家に見える自己愛性パーソナリティ障害の人ですが、強く見せているその内面には、もろさ・孤独・劣等感を抱えています。だからこそ、自分の欠点を指摘されたり非難されると、自分の全存在を否定されたかのように受け止めてしまいます。ですから、非難されても自分の非をなかなか認められず、激しい攻撃をしかけてくる場合もあります。ですが、それが正当な非難で逃れられないとなった瞬間に、自分の全てが終わったかのようにひどく落ち込み、絶望して自殺してしまう事もあるぐらい、弱くもろい人たちです。

4.内面に抱えているもろさ・孤独・劣等感を癒やす為に、依存する相手が必要です。自分の自慢話が大好きなので褒めたたえてくれる取り巻きを作っており、依存先がその取り巻きである場合もあります。また、親や配偶者など特定の相手が依存先である場合もあります。常に自分の望み通りの言動や対応を依存先に求め、求めた通りの反応が相手から返ってこなかった場合は裏切られたと感じ、激しく攻撃したり、暴言を吐いたり、悪口を言いふらしたり、威圧的な態度で抑えつけようとしたります。また、アルコール依存や恋愛依存等の、依存症を抱えている場合もあります。

5.このように、距離が取れている間はとても魅力的な人。だけど近しい関係になった途端に、自己中で不安定で攻撃的になる。この激しさに、職場の人や家族や配偶者や恋人や友人など、たいていは周囲も巻き込まれて苦しい状態になります。また本人としても、仕事が続かなかったり、人間関係が上手くいかなかったりするので、日常生活の中で困る事も多いはずなのです。
なのに、本人には問題意識がありません。「自分に問題があるのかもしれない」という事実と直面することに耐えられないので問題をすり替えてしまい「自分は悪くない、周囲の者が悪い。」という認識になってしまうからです。

原因

成育歴の中で「養育者から愛情を与えられる経験や、養育者から認めて貰えるという経験をしていない」これが原因のひとつとしてあげられます。その時に受けたこころの傷や寂しさを、他の人たちからの賞賛で補おうとしているのです。また「偉大な自分でなければ許されない」「失敗はあり得ない」というような恐怖感を、本人も気付かないうちに抱えたまま大人になっています。そのため、過剰な自信という鎧をつけて、弱くてもろい自分のこころを守っているのです。

先述した【境界性パーソナリティ障害】が、自己愛が極端に小さく「私なんて…」というような思いを抱えているのに対して、自分の傷付きやすさを補おうとして、自己愛が極端に大きくなっているのが【自己愛性パーソナリティ障害】です。境界性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害は、ちょうど正反対のように見えますが、根っこはどちらも自己愛の傷付きが原因です。

治療

自己愛性パーソナリティ障害の方は問題意識が無いので、自分から悩んで受診することは殆どありません。ただ、自己愛性パーソナリティ障害の特徴を読んで「自分もあてはまる」と感じた時に、「改善したい」と本人が思えるかどうかが、大事なポイントです。その上で、治療には長期に渡ってカウンセリングをしていく必要があります。

接し方のポイント

自己愛性パーソナリティ障害の人が上司や同僚だと、職場の人たちは大変苦労しますが、彼らの言葉に動揺せず、感情を見せず、つかず離れずの距離を保って、下手にも上手にもならずに受け流していきましょう。
もし、その人をどうにも避ける事が出来ずに辛い時には、こういう風に考えてみて下さい。
他人に対して感謝する事も、尊敬する事も、愛する事も出来ないということは、いくら周りに取り巻きが居たとしても、心の触れ合いは一切ありません。常に孤独なのです。彼らはそのようなどうにもならない孤独の中にいて、あなたを攻撃することで自分を保とうとしているだけです。
そう考えれば、彼らの言動に振り回されず、受け流しやすくなるかもしれません。

ですが、ハラスメント等の攻撃をあなたが受けている場合は、そこから【逃げる】という選択肢が一番です。そこで逃げられない(と思っている)場合は、あなた自身のこころに自己愛の傷付きがあるのかもしれません。

また、配偶者や恋人に自己愛性パーソナリティ障害の傾向があった場合「私が頑張れば治るんじゃないか。」そう思うかもしれません。ですが、いくら他人が助けようとしても、彼らはその手助けを受け取ることができません。そういう障害だからです。むしろ大きな怒りを招いて攻撃的になるおそれがあります。

そこで大事なのは、あなた自身が自己愛性パーソナリティ障害の方に巻き込まれて精神的ダメージを受けないように、こころの距離を取るです。彼らがあなたに暴言を吐いても、それは彼らの心の問題から発していることで、実際のあなたに問題があるわけではありません。そこを理解した上で、先述したように、彼らの言葉に動揺せず、感情を見せず、つかず離れずの距離を保って、下手にも上手にもならずに受け流していきましょう。

ただ、大人のあなたにはその対応が出来るかもしれません。ですが、もしお子さんが居た場合「自己愛性パーソナリティ障害の親の言葉に動揺せず、感情を見せず、つかず離れずの距離を保って、下手にも上手にもならずに受け流す」事が、子どもに出来るのでしょうか?
子どもは、安定した親との繋がりの中で安心感を抱きながら、自分自身の感情を豊かに感じ健全な自己愛を育んでいきます。自己愛性パーソナリティ障害の養育者の元で育った子どもが、健全な自己愛を育めないまま成長し、その子どももまた何らかのメンタル不調を抱えてしまうケースも数多くあります。

ですからもしお子さんが居た場合、勇気をもってパートナーと完全に距離を置いてしまうというのも1つの手です。結局はそれが、自己愛性パーソナリティ障害の方本人に問題を自覚させ、改善したいという気持ちを引きだす可能性になる場合もあります。

参考文献
【知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス】厚生労働省
【パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか】岡田尊司 著

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