自分の話をしようとすると悲しくもないのに涙が溢れて止まらない現象はなぜ起こる?

最近「多いなあ」と感じることがあります。
それがタイトルの件です。問題を抱えてカウンセリングにいらっしゃって、さてご自分の話をしようとすると涙が溢れて止まらなくなってしまう方がかなりいらっしゃる、ということです。特に20代の若い方。そしてだいたい皆さん共通して仰るのは、
「今なにかすごく悲しいとかそんなんじゃないんです。自分の話をしようとすると涙が出てくるんです。昔からそうなんです。」

かくいう私の娘も過去そうでして、
「悲しい訳じゃないの!話そうとすると勝手に涙が出てくるんだから仕方ないでしょ!」
と、泣きながら訴えておりました。

この現象で一番困るのは、仕事をする時ではないでしょうか。
周囲のみんな、特に先輩や上司なんかは、
「ミスしたのはあなたでしょ…それをちょっと注意しただけなのにすぐ泣くんだもんな…まるでこっちがいじめてるみたい…パワハラしてるってみんなに思われると嫌だな…」
って、もやっとしたり嫌な気持ちになったりします。だけど何より本人自身が、
「うわわ、また涙出てきたどうしよう…泣けばいいってもんじゃないって先輩に思われてるよな…でも涙が出てくるんだよう…」
って困っているんですよね。
私のことだ!と思ったあなた。なぜこのようなことが起こるのか、以前も一度書いたような気がするのですが、もう一度紐解いていきましょう。

あなたは小さいころ、自分の気持ちを誰かに伝えるときに、泣くんじゃなくて言葉で伝えようとしたはずなんです。何度も何度も。だけど
『自分の気持ちを言葉で伝えることが許されない環境』
が、どこかにあった可能性がとても高い。いくつか例をあげてみましょう。

「お父さんやお母さん(またはおじいちゃんやおばあちゃん)がすごく厳しくて、何でも言う通りにしないときつく怒られた。」

「小さい頃から厳しいスポーツの習い事をやってきた。監督や先輩の言うことが全てで、自分の気持ちを伝えることは監督や先輩に逆らうことだったから、絶対に許されなかった。それに、試合で良い結果を残せないと監督だけじゃなくてお母さん(お父さん)にすごく怒られて「腕立て100回やるまで家に入るな!」なんて言われたりした。そんな時「試合で疲れてるから休ませて」なんて、自分の気持ちを伝えようものなら、お母さん(お父さん)の怒りが倍増してますます怒られるので、黙って従うしかなかった。」

「小さい頃、ピアノを習っていた。コンクールや発表会もあるような、ガチのやつ。最初はピアノを弾くことが楽しかった。でも毎日毎日練習しなきゃいけなくて、ちょっとでも間違うと親に怒鳴られる。本当は『今日は練習休みたいな』とか『怒らないで』とか言いたかったけど、怖くて言えなかった。」

「お父さんとお母さんの仲が悪くて、2人はしょっちゅう喧嘩をしていた。そんなの見たくも聞きたくもなかった。本当は『ケンカしないで。仲良くして。にこにこして。』って言いたかった。だけど子どものあたしには言えずに、こっちにとばっちりが来ないようにするので精一杯。私の存在を消すように、いつも両親の機嫌を伺ってびくびくしていた。」

「小学校の低学年の頃から、中学受験のために塾に通っていた。友達と遊ぶ時間もあまり取れなかったし、お休みの日も塾。毎日遅くまで勉強勉強。高学年になるとゆっくりご飯を食べる時間もないぐらいだった。成績が悪いと塾の先生だけじゃなくてお母さん(お父さん)に怒られる。問題を間違うと殴られることだってあった。どんなに疲れていても休むことは許されなかったし、泣いたら余計に怒られる。だからこころを閉ざした。」

「色んな理由があって家が貧しかった。こうしたいなあ…とかいう私の想いがあっても聞いて貰えなかったし、だんだん家の状況が分かるようになって、我慢するようになった。お母さん(お父さん)がすごく大変なのも分かってきたし。」

「お母さん(お父さん)がすごく過干渉で過保護で、私のやることなすこと口出ししてきたし、私が何を言っても何をしても全否定。進学も就職も友人関係も異性関係もいつもいつもそう。それに親に褒めてもらった記憶がない。」

ほんの一例ですが、これらは決して
「お母さん(お父さん)が、あなたにやったことが良いか悪いか」
を問うものではありません。問題は
「いま現在もあなたのこころに傷がある」
ということです

自分の気持ちを言葉で伝えることが『許されなかった』もしくは『ことごとく否定された』。そのたびにあなたのこころは傷付いてきました。ここ、すごく大事なポイントだからもう一度言います。
「あなたのこころは傷付いてきたんです。」
なのに皆さん「あたしのこころは傷付いている」という自覚がありません。
なぜなら、子どもは他人の家の両親がどうなのかよく分かりませんから
「まあ、どんな家でもこんなもんなんだろうな」
って思ってしまい、自分のこころが傷付けられていることに、気付かないからです。
それに、子どもは親が大好きですから、
「お母さん(お父さん)がそれで良いんだったら」
「お母さん(お父さん)がご機嫌でいてくれるんだったら」
「お母さん(お父さん)がそれで幸せなんだったら」
と、自分のこころが傷付けられていることに目をつぶって、親の言う通りに頑張るからです。

また「あたしは傷付いた」という感情も、言葉にして伝えることは許されませんでしたね。そうすると、傷付いてきた自分の気持ちは心の奥底(無意識の層)に押し込めて、無かったことにするしかないんです。そうやって、言えないまま無意識に押し込めた感情はどんどん積み重なっていき、他人を目の前にした時に、涙となって溢れます。その涙は
「お願いですからこれ以上、あたしを傷付けないでください。」
という、他人へのお願いなんです。あなたは気付いていないけれど、傷を負っている自分のこころを守ろうとする涙なんです。

となれば、いま現実にあなたが抱えている問題と、「自分の話をしようとすると涙が溢れて止まらなくなってしまう」と言う現象には、深い関係があります。ですから、いま抱えている問題だけを見て対処出来たとしても、同じような問題がまた起こってくる可能性が高いです。

問題を繰り返さないためには、あなたが無意識の層に押し込めてしまった感情を「無いもの」から「在るもの」にしていくことが大事です。だけどそれをするには、あなたの『自我』が強くなければいけません。なぜなら、押し込めてきた感情を取り出した時に、うわーっと飲み込まれてしまわないようにです。

自我を強くするとは、まず
「あたしは傷付いてきたんだ」
と言う現実を、しっかり認識してあげることです。そうしたら
「あたしはあの時、何を感じていたのか」
「あたしはあの時、どう思っていたのか」
「あたしはいま、何を感じているのか」
「あたしはいま、どう思っているのか」
そういう感情を、あなたがきちんと見てあげて、受け入れてあげること。
それらを、あなたの感情を否定しないカウンセラーと一緒に、少しづつゆっくり練習していきましょう。そうすることで、こころの傷が癒やされていき「自分の話をしようとすると涙が溢れて止まらなくなってしまう」という現象や、それに紐づいている問題も、徐々に良くなっていくでしょう。

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