周囲を巻き込む【パーソナリティ障害】

パーソナリティとは

パーソナリティとは、その人の【個性、人格、人柄】の事です。ですから、パーソナリティはそう簡単には変えられませんし、むしろ変える必要はありません。

ではパーソナリティ障害とは

パーソナリティ障害とは、その個性、人格、人柄が障害となっている状態のこと。つまり、あまりにも極端に偏った個性、人格、人柄が、極端な考え方や行動パターンを起こして、社会生活や家庭生活に支障をきたしている状態のことです。「パーソナリティって性格なんだから、本人がそれで良ければいいんじゃないの?」とも思いますが、パーソナリティ障害はたいてい本人だけの問題では済まなくなり、周囲を巻き込みます。自分だけでなく周囲も苦しめる事がままあるのです。

このように、パーソナリティ障害は本人も困っているし、周囲も困っているのですから、そのパーソナリティは変える必要があるし、時間は掛かりますが変える事が出来ます。

パーソナリティ障害のタイプ

精神障害の診断と統計の手引きとして、米国精神医学会により定められた診断基準が【DSM-Ⅳ】です。これによると、パーソナリティ障害は10のタイプに分けられます。

1.  境界性パーソナリティ障害

2.  自己愛性パーソナリティ障害

3.  演技性パーソナリティ障害

4.  反社会性パーソナリティ障害

5.  妄想性パーソナリティ障害

6.  失調型パーソナリティ障害

7.  シゾイドパーソナリティ障害

8.  回避性パーソナリティ障害

9.  依存性パーソナリティ障害

10.強迫性パーソナリティ障害

「こんなにあるの?!」とびっくりしませんか?それぞれのタイプによって特徴は様々なのですが、どのタイプにも共通する特徴があります。

共通する特徴

自分に強いこだわりを持っています

境界性パーソナリティ障害の特徴である、極度に「自分はこんなにダメなんです。」という思いや、自己愛性パーソナリティ障害の特徴である、極度に「自分はこんなに素晴らしいんです!」という思いなど。これらは両極端の思いですが、いずれも自分に対する強いこだわりで、その思いから逃れる事が出来ません。

とても傷つきやすいです

なんでもない一言や、何気ない素振りでさえ、彼らを深く傷付けます。傷付く事で自分の内側に閉じこもる場合もあれば、逆に怒り出す場合もあります。

愛し下手です

他人を信頼することや愛することの障害を抱えているので、本人やパートナーや家族を安定した幸せから遠ざけてしまいます。

どこか子どもっぽい

子ども時代の課題を乗り越えていない場合が多く、大人になってからも子どものような行動を取ってしまい、何となく子どもっぽい印象を与えます。

パーソナリティ障害は、自己愛の障害でもあります

自己愛とは自分を大切にする力です。この力がきちんと育っていないと、「私なんて…」というような強い自己否定感を常に抱える事になります。この強い自己否定感は【境界性パーソナリティ障害】で典型的に認めらるパターンです。

また逆に、自分の傷付きやすさを補おうとして、自己愛が極端に大きくなっているパターンもあります。「自分は特別な存在なのだから、他人は私を称賛しなくてはならない」。このようなパターンは【自己愛性パーソナリティ障害】で認められます。

パーソナリティ障害には優れた点もあります

パーソナリティ障害の人は生き辛さを抱えています。だけど人は生きていかなければなりません。だから、パーソナリティ障害の極端な考え方や行動パターンは、その人が生き辛さをカバーして生きていくために編み出した、特有の考え方と行動パターンなのです。それは確かに誤った信念かもしれません。ですがそうやって必死に生きてきたのです。

その誤った信念は、その人独特の生き方や考え方を生み出します。ですから見方を変えれば【個性的】と捉える事もできます。パーソナリティ障害の人が、その人の個性にあった仕事に就く事が出来れば、大きな才能として花開く事もできるでしょう。

受診の目安は?

① 本人が困っているか

② 周囲が困っているか

これが、受診の目安になるかと思います。ですが、パーソナリティ障害の方が実際に医療機関を受診される時は、他の精神疾患を合併している事がほとんどです。つまり、パーソナリティ障害が根っこの問題にあって生き辛さを強く感じる事で、うつ病や不安症や依存症などを発症して受診される、というケースが多いです。

原因は?

遺伝的な要因と環境的な要因があると言われています。遺伝的な要因についてはどうすることも出来ませんので、ここでは環境的な要因についてお話しします。

環境的要因

子どもは、養育者からの愛と保護の中で、自分が安全に守られた存在であるという事をしっかり認識します。そしてこの体験が、先ほど申しました自己愛(自分を大切にする力)の基礎となります。

そこからさらに自己愛が健全に育つ為には、養育者が子どもに安心と安全を与えながらも、養育者の助けや支配を徐々に脱していくように導いていく必要があります。つまり、養育者の手助け無しでも、子どもが小さな傷付きに耐えられるような力を、養う時期が必要なのです。

ですが、養育者との分離があまりにも早かったり、逆に養育者に溺愛されすぎたり養育者が支配を続けたりする事で分離が出来なかったりすると、子どもの自己愛が健全に育ちません。パーソナリティ障害は自己愛の障害でもありますので、このような養育者との関係が原因である場合が多々あります。

また、もうひとつの環境的要因は、PTSD(心的外傷ストレス障害)です。身体的虐待や性的虐待、いじめ等を原因としたPTSD(心的外傷ストレス障害)が、パーソナリティ障害を生み出す環境的要因としてあげられます。

どうやって治療するの?

抗うつ薬や抗精神病薬が使用される事もありますが、心理療法(カウンセリング)も大事な治療のひとつです。パーソナリティは、長年に渡ってその人が培ってきたものですので、長期に渡って患者と治療者が協力して治療に取り組む事が必要になります。

自分の人生は自分で責任を持つという意識を持ちましょう

パーソナリティ障害は、幼少期の養育者との関わりや、不遇な環境といったものが大きな原因のひとつでもあります。確かにそこには、とても哀しい物語があり、癒やされるべき大きなこころの傷があります。ですが、いつまでも養育者や環境のせいばかりには出来ません。

自分のパーソナリティに向き合って、問題を何とかしようと努力してきた人と、問題に向かい合わずに養育者や環境のせいばかりにしてきた人との差は、ある程度の年齢になるとハッキリ違ってきます。努力してパーソナリティ障害を克服した人は、とても魅力的な個性を持った人として周囲に認められ、信頼や愛情に恵まれます。ですが、問題に向き合わずパーソナリティ障害を引きずったまま年を取った人は、周囲から煙たがれ、信頼出来る人は離れていき、孤独になっていきます。

そうならない為にも「何だか生き辛いな…」と感じた時や、周囲の人たちの反応から「あれ?」と思った時に、自分自身を振り返ってみることです。そして自分自身を知る事です。自分1人でやるのが難しければ、カウンセリングを受けてみるのもひとつの方法です。そこで日常生活に困っているのであれば、受診をして診断を受けて、治療を開始しても良いでしょう。

また、たとえ病的ではなかったとしても、自分のパーソナリティにどのような傾向があるのかを知っておく事は大事です。日常生活の中での言動に気を付けられますし、問題だと思うのであれば、カウンセリングを続けてこころの傷を癒やし、自己愛を育てる事も出来ます。訳も分からないまま問題が大きくなってメンタル不調に陥ってしまう、という事態を防げるのです。

あなたは大切な存在です。だけどあなたを大切にしなきゃいけないのは、他の誰でもないあなた自身です。自分を振り返って自分自身を知るという事が、自分を大切にするという第一歩です。それが、自分の人生は自分が責任を持つという事でもあります。

参考文献

【知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス】厚生労働省

【パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか】岡田尊司 著

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